採算度外視。ガラス材料の受託製造会社が、
自社商品「みるくがらす」にこだわる理由とは?

(株)三重フリット 社長の森田耕平さん

(株)三重フリット
三重県三重郡菰野町永井北柿之木3067-92
TEL: 059-396-2886
https://miefrit.com/

電子材料用の特殊ガラス製造を事業の柱とする三重フリット。基本的な事業モデルは、クライアントが求めるものをつくる受託製造である。そんななか独自に開発した商品が「みるくがらす」だ。新規事業にかける想いを、同社社長の森田耕平さんにうかがった。

独特の風合いで、吹きガラスの
創造性を引き出す「みるくがらす」

――「みるくがらす」の概要を教えてください。

森田:三重フリットが独自に開発したカラーロッドのブランドです。カラーロッドとは、吹きガラスの表面に溶け込ませて色付けするガラス材料を指します。現時点では7色展開です。最大の特長は、文字通りミルクのような風合い。ガラスなのに、柔らかさや温かみが出せるんです。職人さんの腕にかかれば、濃淡や透け感を自在にコントロールできるので、デザインの幅を大きく広げることができます。

――新規事業を立ち上げた経緯は?

森田:カラーロッドは海外製品が多いのですが、なかには泡や異物が混入しているものもあります。付き合いのある吹きガラス職人さんは、「それを指摘しても、海外メーカーはなかなか対応してくれない」とお困りの様子でした。そこで当社が、品質の高いカラーロッドを提供する役目を担おうと決めたわけです。実は以前、マグカップ用に色ガラスをつくったことがあったのですが、そのマグカップの売れ行きが非常に良く、手応えは感じていました。

――反響はいかがですか?

森田:職人さんから、多数の問い合わせや要望を頂いています。「この色もラインナップに加えてほしい」とか。ただ、商品化してからまだまだ日が浅い。ようやく最近、売上が増えてきましたが、正直なところ赤字です(笑)。ただ、そもそもこの事業で利益を出そうとは考えていません。

八角硝子棒「みるくがらす」

直径3センチ、長さ10センチの八角硝子棒「みるくがらす」。このロッドを使用してつくった作品もまた「みるくがらす」と呼ぶ。

たとえ赤字でも、お釣りがくるほどのリターンがある

――どんな目的で自社商品に取り組んでいるのですか?

森田:現在、三重フリットの事業の柱は電子材料用のガラス製造。スマートフォンなどさまざまな電化製品に使われています。ただ、お客様の要望に応じて粉末やブロックのガラスを受託製造する仕事なので、つくったものに対する消費者の反響は、どうしても我々のもとまでは届きづらい。一方、「みるくがらす」はプロユーザー向けとはいえ、オンラインで直接販売する最終製品。反響がダイレクトに得られるわけです。そこに挑戦することに社員はやりがいを感じています。

――顧客から反響があれば、自信や誇りにもつながりそうですね。

森田:はい。加えて、吹きガラス職人さんは要望が細かく、こだわりも強い。そこに応えていく中で顧客対応力と技術力を磨けることも、この事業を重視する理由の一つです。できることが増えれば、それが本業にも波及するでしょうし、次のビジネスチャンスを生み出すかもしれません。こうした目的意識を社員全員で共有し、「目先の利益は追い求めなくていい」と話しています。

――狙った効果はありましたか?

森田:実際、働く喜びやスキルアップにつながっている実感があります。辛抱強く開発に取り組む姿勢も身につきました。それに、メーカーのような動きがどんどん身についているんです。例えば同じカラーロッドでも、職人さんによって「柔らかすぎる」「硬すぎる」と反応は異なるもの。普段ガラスを溶かしている温度が工房ごとにバラバラだから当然です。そこで「温度をもうちょっと上げてください」というふうに、我々が発信するわけです。プロダクトをつくる側として、自分たち主導で使用条件を整理していく。受託製造では得られない経験です。多くの学びと刺激をもらっています。

乳白色の模様を施したグラス

乳白色の模様を施したグラス。ガラスの涼やかさの中にも、やさしさと温もりが感じられる。

幅広い天然材料、多色展開への挑戦。
海外展開も夢じゃない。

――最近、吹きガラス設備を導入したそうですね。

森田:そうなんです。これまでは大阪や愛知の工房に試作品を送って評価いただいていたので、すごく時間がかかっていました。今後は評価も内製化できるので、この手間が解消されます。さらには吹きガラス工房として、近所の子どもたちに向けて体験教室を開くこともできます。私たち自身が吹きガラスのスキルを磨き、理解を深めれば、職人さんとの連携や共創にも弾みがつくはずです。

――例えば、どんな共創を考えていますか?

森田:ガラスって面白くて、天然材料でできているから、いろいろなものが材料になるんです。例えば伊勢海老の殻や松坂牛の骨から、ガラス製の置き物をつくることもできる。お土産なんかにちょうどいいですよね。付加価値をつくり、吹きガラス職人さんの作品の可能性を広げるお手伝いもできる。そういう幅広い天然材料へのチャレンジも考えています。

――今後の商品展開の予定は?

森田:色のラインナップを拡充する予定です。ガラスの場合、化学反応で色を出しているから、絵の具のように色と色を混ぜ合わせて別の色をつくることはできません。ある意味不便ですが、裏を返すと、色の数だけ商品化できることを意味します。50色ぐらい揃えれば、一気にお客様は興味を持つんじゃないかと。生産量が増えれば採算性が出てくるし、世界にも通用する可能性がある。日本市場より圧倒的に大きい海外市場に進出することが、今後の大きな目標ですね。

(株)三重フリット  森田耕平 社長

笑顔が印象的な森田社長。作業服には「みるくがらす」のロゴマークが。自社商品への希望と誇りが刻まれている。

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