(株)コーセイ
愛知県名古屋市守山区花咲台2-104
TEL:052-799-3138
https://kosei-9.co.jp/
まるで、新進気鋭のスタートアップ企業。
高速道路や橋梁の路面に降った雨水は、側溝を経て、主にねずみ色をした樹脂製の排水管をつたって橋脚の足元へと流れ落ちる。株式会社コーセイは、この排水管を加工・開発する会社だ。パイプづくりに特化した少数精鋭の技術者集団とも表現できる。
この説明だけを聞いたら、多くの人は昔ながらの町工場、あるいは職人の世界を想像するのではないだろうか。
ところが、である。まず工場の様子からして、ひと味もふた味も違うのだ。新興の企業団地「テクノヒル名古屋」の一角を占めるメインファクトリーは、建物も設備もピカピカと言っていいほどに美しい。2013年開設と新しいことに加えて、日頃の整理整頓も行き届いているからだろう。汗水流して泥くさく、といった昔ながらの現場の姿とはほど遠い。洗練された雰囲気は大企業の新工場を思わせる。
次に目を見張ったのが、働いている社員だ。日本のどこの工場にも必ずいるであろう「ベテラン」「職人」「生き字引」などの言葉が似合う社員は見当たらない。圧倒的に若いメンバーばかりである。まるで新進気鋭のスタートアップ企業のように。聞けば、社員数は16名、平均年齢は30歳だという。各工程を説明してくれたのもフレッシュな若手社員だった。いきいきと話す様子からは、ふだんの仕事の充実ぶりが伝わってくる。
イニシアティブを取って仕事をするために。
若手が主役の会社に違いない。そう確信したのは取材開始時だった。会議室に現れたメンバーは、株式会社コーセイの技術部門から3名と、バックオフィス機能を担う株式会社企画センター正方成の経営企画部から2名。計5名のうち2名は20代である。小紙『Hello! FACTORY』では会社の“中心人物”への取材を基本としているが、この人選にこそ、コーセイの価値観が明確に示されていた。
はじめに会社の設立経緯を話してくれたのは、コーセイ技術部門の課長、大脇さんだ。
「コーセイの設立は2011年。ライフクという会社から分社化しました。狙いは下請けのヒエラルキー構造から脱却するため。橋梁のような土木プロジェクトにおいて、排水管はどうしても下位に分類され、イニシアティブを取れない。そこを変えたかったんです」。
地位向上のためには、競合優位性を獲得する必要がある。そこで、技術に専門特化した会社を立ち上げたのだ。
その後、営業・設計のライフク、加工・開発のコーセイ、施工のリケン、そして全体のバックオフィス機能を担う企画センター正方成という4社からなるIKIグループが成立。コーセイはグループの一貫体制を強みに、業績を拡大していった。さらに営業機能も自前で持つようになり、単独でも一貫体制を構築。設立当初は内販100%だったが、わずか数年で外販が70%を占めるまでに成長を遂げたというから驚きだ。もはや、ヒエラルキー構造に巻き込まれることもないという。
図面の隙間にある“余白”。そこが“伸びしろ”ポイント。
ここまで見事に地位向上が達成できたのは、企業文化の存在が大きい。困難な依頼を断らず、試行錯誤を繰り返す。この姿勢が道を開いたのだ。いわば一人ひとりの主体性が武器になってきたのだ。そんな働き方をやりがいとして挙げたのは、コーセイの若手技術者を代表する平野さんだ。
「自分なりに工夫できるから楽しいんです。うまくいったら、その方法を仲間に共有できます。そうして成長していくことが日々のやりがいです」。
樹脂製のパイプをカットする。切削する。曲げる。溶接する。一連の工程をただの作業にせず、どうすればもっと効率化できるか。品質を向上できるか。自分なりのアイデアを実践しつづけるから楽しいのだ。上司の大脇さんが補足する。
「もちろん、依頼元の図面通りに仕上げることが必須です。でもそれさえ守ればプロセスは自由。この余白が技術の伸びしろとなり、一人ひとりの成長につながります」。
成長を実感できることに喜びを見出しているのは、中堅の伊藤さんも同じだ。
「おかげさまでたくさんのご依頼をいただいて、正直忙しいです。難しいご要望をいただくこともあります。それをみんなで乗り越えていくことで、自分も会社も成長している感覚があります。この仕事を通して得られる充実感は大きいですね」。
どんな業務も「ただの作業」になっては意味がない。
一人ひとりが主体的に動く。若手が主役になり、リーダー層がその力を引き出す。こうしたカルチャーを育み、強化する役割を担っているのが、グループを支える正方成である。経営企画部部長の近藤さんは「ただの作業になっては意味がない」と言う。一例として挙げたのが、ハローワークを使った採用だ。
「グループ全体の採用を行っているのですが、従来は膨大な予算を人材紹介に注ぎ込んでいました。そこに疑問をもち、ハローワークのサービスをフル活用してみたところ、ものすごい効果があったんです。担当者と綿密に打ち合わせをしてイベントを企画し、原稿も有料媒体と変わらない熱量で書きました。蓋を開けてみたら、うちの社風にフィットする人材を立て続けに採用できたんです。今も、この2ヶ月で50~60名のご応募をいただいています」。
近藤さんのもとで広報を担当する西脇さんも、ひと工夫の大切さを実感したひとりだ。
「経営理念の浸透に力を入れているのですが、以前はルーティーンのように会社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を順番に社内SNSで発信しいました。でも、『ただの作業になっちゃっているね』と近藤さんと話し合い、やり方を変えたんです。『スピード』というバリューなら、それを想起させる画像、例えば猛スピードで走る動物の画像を添えたり、その言葉に関連する偉人の名言と共に発信するというふうに。そうしたら、それまで全く反応のなかった社員からも返信をもらえて、すごく嬉しかったです。ようやく意義のある取り組みにできた気がします」。
ただの作業になってしまうと、自分自身が楽しめなくなる。結果もついてこなくなる。とはいえ、そこから脱却し、新しいことに挑戦するのは骨が折れるに違いない。それでも近藤さんは言う。「結果にはどこまでもこだわりたい」と。平野さんも、その苦労の大切さについて身をもって知ったという。
「コーセイのホームページ制作プロジェクトに参加したときのことです。正方成、制作会社と何度も打ち合わせをして、どんなコンテンツにするか決めていきました。社内で使っている専門用語を、いかにしてわかりやすく伝えられるか苦心しましたね。正直ものすごく大変でした(笑)。でもホームページを公開したら、お問い合わせ件数が以前と比べ物にならないくらい増えたんです。目に見える成果があり、参加したかいがありました」。
カルチャーの発信源は、爆速で行動する伊木社長。
なぜ、コーセイをはじめIKIグループには、こうしたカルチャーが根づいたのか? 5人が顔を見合わせ、そろって口にしたのは社長の存在である。近藤さんが代表して、象徴的なエピソードを紹介してくれた。
「誰もついていけないようなスピードで走っているのが、社長の伊木です。実は2023年に保育園を開園したのですが、そのときのプロジェクトがまさにそう。3年前の総会で、社長が初めて口にしたんです。『このエリアはまだ待機児童の問題が解消されていないから、地域貢献のために保育園をつくりたい』と。私は立ち上げから担当させてもらいましたが、もう目眩がするようなスピード感でした(笑)。ふつうだったら石橋を叩いて進むものだけど、社長は考える前に行動しているんじゃないかと(笑)。すべてがこのスピード感です。社員はついていくのに精いっぱい。でも近いうち、今度は自分たちが社長を動かせるくらい動き回ってやろうと思っています」。
なるほど。自ら動く社員ばかりなのは、爆速で動く社長へのリスペクトがベースにあるからなのかもしれない。それにしても、いったいどんな社長なのだろうか。浮かび上がってきた新たな謎に、ますます興味を惹かれる。次はぜひ、社長にインタビューをしてみたい。そんな思いを胸に、取材陣一同は工場を後にしたのであった。
編集担当:相宮 祐太
こんなに若手が活躍している工場、初めて見ました!
現場の高齢化は、もはや社会問題でもあります。そんななか、若手をどんどん採用できること、育成する余力があること、実際に若手の皆さんがいきいきと働いていることに驚きました。きっとコーセイさんのような会社が、日本のものづくり文化をアップデートしていくのだと思います。