性能の数値化で、
木材の可能性を広げる。

後藤木材(株)七代目社長の後藤栄一郎さん

後藤木材(株)
岐阜県岐阜市大倉町12
TEL:058-271-3000
https://www.houscrum.co.jp/

木質化のキーワード、「圧密」とは?

こんなに木をふんだんに使った工場は見たことがない。柱も梁も接合部の補強材も、すべて木材で構成されている。柱同士の間隔は12メートル。フォークリフトが行き交う大空間を、鉄骨ではなく木材で実現していることに驚く。ここは、木材を加工するプレカット工場。後藤木材が開発した「GWシステム建築」という新工法で設計・施工され、2022年に竣工を迎えたばかりだ。同社の代表作のひとつである。

隣接する木造オフィスの目玉は、仕上材の「圧密製品」だ。階段、床、内装壁材、会議室の大テーブルなど至るところに使用されているが、目を凝らすと、木目がぎゅっと詰まっていることがわかる。強度が段違いなのだという。

いま建築業界のトレンドといえば、木造化・木質化であり、国産材の積極活用だ。なぜ古くから慣れ親しんできた木材が、再び脚光を浴びているのか。理由は大きく2つある。ひとつは、脱炭素化や林業再生に寄与するサスティナブルな建築材料だから。もうひとつは、技術革新が次々と起こっているから。柔らかく変形しやすいスギ・ヒノキの弱点が大きく改善されつつあるのだ。「GWシステム建築」と「圧密製品」は、そのひとつの到達点である。イノベーションの担い手である後藤木材だが、もともとの出自は木材商社。いったいどのような紆余曲折を経て、建築技術の最前線に躍り出たのだろうか。

独自開発した新工法「GWシステム建築」で実現した木造大空間の工場と強度が段違いの「圧密製品」

[写真:左]木材加工の工場は、独自開発した新工法「GWシステム建築」で実現した木造大空間。木肌のみずみずしさや温もりが心地いい。[右]色が薄く柔らかい夏目と、色が濃く硬い冬目が隣り合い、木材は年輪を刻む。この夏目を中心に圧縮したものが圧密製品であり、硬度が増すと同時に色も濃くなる。

木材の品質と向き合う、
技術志向の会社へ。

1889年、後藤木材は白木商として創業。工務店に向けた木材卸売を生業として、戦後は増えつづける住宅ニーズを背景に業績を拡大した。しかし、昭和から平成にかけて住宅着工戸数は頭打ちになり、競争が激化。さらに、2×4工法や軽量鉄骨造などの新工法が伸長すると、取引先の工務店が扱う在来軸組工法は減少傾向に。その在来軸組工法においても工業化が加速し、木材を販売する事業モデルは曲がり角を迎えようとしていた。そこで同社は、建材や住宅設備機器など扱う商材を増やしつつ、木材に付加価値をつける道を模索した。

ターニングポイントは1990年、業界に先駆けて木材のプレカット加工へと進出したときだった。プレカットとは、建築現場での省施工化を目的に、工場であらかじめ木材に加工を施す工程を指す。七代目社長の後藤栄一郎さんが、当時社長だった父親の英断を振り返る。「あの頃は木材卸売の業界全体が、品質に深入りせず現場任せでした。国産材のブランドに甘え、輸入材に遅れを取っていたんです。そこから脱却しようということで、性能の均質化と数値化に取り組みました」。モノを販売する「流通」の会社から、品質をつくる「技術」の会社へ。これが、ものづくりへの扉を開く突破口になった。やがて、建築物自体の構造計算や構造設計まで手がけるようになり、「木質トータルサポート」を謳えるまでに飛躍を遂げた。

精緻で手作業の多いプレカット加工

[写真:左]工務店支給の建築図面から必要部材を拾い出し、加工図を作成。それをもとに部材1本1本を、寸分たがわずプレカット加工する。きわめて精緻な作業だ。[右]物件・部材ごとに加工内容が異なり、継手や仕口の形状も複雑。そのため思いのほか手作業が多い。

栄一郎さんは創業家の長男である。商学部へ進学、アメリカでMBAを取得という経歴だけに注目すると、経営者に向けて一直線かのように映る。しかし、根っこにあったのは「ものづくりがしたい」という思いだ。築100年以上の古民家で生まれ育ち、木造住宅の魅力を肌で感じてきたことも影響しているだろう。オランダへ留学して大規模木造建築のサプライチェーンマネジメントを研究し、就職した化学系ファブレスメーカーでは技術マッチングに従事するなど、文系出身でありながら理系領域で研鑽を積んだ。2004年に後藤木材に入社してからも、住宅の構造設計や工場のマネジメント、販売体制の構築など文理横断的なキャリアを歩んできた。社長就任は2014年。技術志向をさらに発展させ、現在の家づくりの潮流である、住宅の高性能化や品質保証の厳格化という市場環境の変化にも、いち早く対応することに成功した。

圧密技術の
リーディングカンパニーへ。

後藤木材の次なる転機は2018年。圧密技術を、当時のパイオニア企業であったマイウッド・ツー株式会社から買収したときだ。圧密とは、柔らかい板材を上下からプレスすることで微細な空隙を押し潰し、強度を飛躍的に向上させる技術。主な用途は、傷や凹みへの耐性が求められるフローリングやテーブルの天板など。高強度の広葉樹が担っていた領域を、国産材の代表格であるスギやヒノキに置き換えることができる。ではなぜ買収を決めたのか。その背景にあったのは、危機感と技術開発にかける思いだ。「工務店に寄りそうトータルサポートという業態だけでは、時代に取り残されるリスクがありました。自分たちが起点になって製品を開発し、新たな需要開拓に取り組む必要性を感じていたんです。その点、マイウッド・ツーの圧密技術は唯一無二。国産材の可能性を拡げる素晴らしい技術だと考えました」。

事業を取得し、新たな仲間を迎えてから6年。圧密製品は今や、後藤木材の看板製品と言えるまでに成長した。その要因としては、地道な営業活動に加えて、脱炭素化や国産材見直しの気運の高まりが挙げられる。地域産材を取り寄せて圧密加工し、現地の建築プロジェクトに活用することで、木材の地産地消ができる。このストーリーが支持され、全国の自治体から声がかかるようになったのだ。マイウッド・ツー時代から開発に携わってきた伊藤さんは言う。「当初は営業活動に苦戦しましたが、今ではメーカー各社との共同開発プロジェクトもいくつかあります」。新規事業の苦しい時期を乗り越え、圧密技術のリーディングカンパニーとしての地位を確立することに成功したのだ。現在、沖縄を除く全国46都道府県にて加工実績があり、公共施設を中心とする木造・木質プロジェクトで採用されている。そのなかには、隈研吾氏など著名建築家が設計したものも数多く含まれる。

YKK AP株式会社と共同開発した後付けタイプの内窓「ゴトモクのウチマド」

YKK AP株式会社と共同開発した後付けタイプの内窓「ゴトモクのウチマド」。ペアガラスを保持する框などに圧密技術の木材を使用。意匠面はもちろん、性能も折り紙つきだ。

工場や倉庫だって、木造化できる!

圧密製品という強力な武器を手に入れた後藤木材だが、さらなる一手を模索していた。日本全国の新設住宅着工戸数がいまだ減少トレンドにあるなか、我々はどこに活路を見出すべきか―。この長年にわたる問いへの答えが、非住宅建築の木造化推進だ。低層住宅の木造率が約80%を占めるのに対して、非住宅の木造率はたったの約6%に過ぎない。大きなポテンシャルを秘めた市場だと後藤社長は確信していた。主流となっている鉄骨造やRC造を木造に置き換えることに関しては社会的ニーズもある。技術面でも、工場や倉庫、店舗といった低層建築なら木造でも実現可能なはず。

そこで、家づくりの延長で地域工務店が施工できるような独自工法の開発に取り組んだ。もちろん使用する木材はスギ・ヒノキ。それも、一般に流通する規格材だ。技術的なハードルをとことん下げ、さらには鉄骨造やRC造と比べてコストメリットを生むためである。こうして2022年に発表したのが、「GWシステム建築」という独自工法だ。初めての物件として自社のプレカット工場を新設すると、それを皮切りに実績を増やしていった。事務所兼車庫の「千種の木造ビル」は、林野庁の「ウッドデザイン賞2023」を受賞。コスト面と施工面でメリットのある規格材を利用したことが、高く評価された。

圧密技術により、木材でトラス構造を成立させる

大型構造物で威力を発揮するトラス構造を、鉄でもアルミでもなく、まさか木材で成立させてしまうとは。圧密技術の可能性は計り知れない。

木材の可能性を信じ、
挑戦しつづける。

木材の可能性を広げる会社として、後藤社長が見据えるのは木材に関わる全プレイヤーの発展だ。「実は、木は単位体積あたりの値段が大根より安いんです。60~80年かけて育てたものなのに。今我々が取り組んでいるのは、値段が下がっても、目先の需要がなくても、常に一定量の木材を買い取ること。そうすることで、川上の林業も計画的に木を用意できる。定量で買うには、うちがもっと商品開発に力を入れて活用先をつくることが重要です」。川上の林業、川中の木材加工を元気にすることが、森林大国である日本の資産価値向上、ひいては経済活性化にもつながるという。

「私が入社した2004年頃は、木材への風当たりが厳しい時期でした。防火の観点から木造は中心市街地から排除され、鉄骨などに取って代わられてしまった。この先どうなるんだろうという不安がありました。それが今では脱炭素化が叫ばれ、木材をどんどん使いましょうという流れにある。本当に状況が一変しました」。さすがにここまでは予想できるものではない。ただ、ひとつ確かなことは、向かい風のなかでもさまざまな開発に取り組んだからこそ、今こうして追い風に乗れているということだ。後藤木材はこれからも、木材の可能性を信じ、イノベーションに挑戦しつづけるだろう。

編集担当:津田 佑介

編集担当:津田 佑介

原動力はものづくりへの強い意志

昭和までは”文系の会社”だったという後藤木材さん。それが、プレカット加工をきっかけに”理系の会社”へと転身。平成の失われた30年の間にめきめきと技術力を伸ばし、今ではイノベーションカンパニーというポジションに。ここまで鮮やかな成長を遂げた会社、聞いたことがありません!

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