今でも楽しくて
しょうがない(笑) 。

シーケークリーンアド(株) 渡邉さんと草深さん

#12 シーケークリーンアド(株)
愛知県名古屋市港区小割通1-2-1 2F
TEL:052-654-1715
https://www.ck-clean-ad.co.jp/

ものづくりから
サービス業への挑戦。

その姿はまるで、使用済みのバーベキュープレートのようである。真っ黒にすすけ、油でギトギト。そんな四角い金属製プレートが、高温・高圧で吹き付けられる熱水によって、みるみるきれいになっていく。ほかほかの湯気の中、本来のメタリックな輝きを取り戻したその製品の名は「グリスフィルター」。調理中に発生する油の微粒子をキャッチするフィルターで、主に厨房の業務用換気扇に装着される。シーケークリーンアド株式会社は、このグリスフィルターを飲食店にレンタルし、定期洗浄・交換する事業を30年以上前から行っている。

このレンタル事業の仕組み自体は、当時から世の中に存在したものだ。ただ、鉄鋼メーカーの新規事業としてスタートしたことが異例であった。製造業から、業態が全く異なるサービス業へ。ノウハウは一切ない。暗中模索のなか顧客を探し、強みを確立し、事業の継続性を構築しなければならなかった。そんな一筋縄ではいかないプロジェクトを成功に導いたのは、当時まだ20代半ばに過ぎなかった若者たちだ。今は経営幹部を担う創業メンバーのふたりに、これまでの歩みについてうかがった。

高圧洗浄機による洗浄の様子

[写真:左]回収したグリスフィルターの最初の工程は、高圧洗浄機による洗浄。目立つ油汚れは粗方この段階で落とすことができる。[右]次にリフトで流れる洗浄機へ。人の手でセットしていく。

飛びこみ営業? 分社化??

鉄鋼メーカーである中部鋼鈑株式会社がレンタル事業を始めたのは1991年。畑違いの新規事業ということで、中途採用でメンバーを募集した。希望に胸を膨らませ、一期生として入社したのが渡邉さんと草深さんだ。「それまでふらふらしていたので、心を入れ替えてがんばろうと思いました(笑)」。現在、シーケークリーンアド株式会社で常務を務める渡邉さんが笑いながら言う。一方、最近工場長に就任した草深さんは、元プロ野球選手。6年の現役生活を終え、所属球団のある広島から地元愛知に帰る道を選んだ。「自分たちで一から何かをつくり上げることに魅力を感じたんです」。

しかし、いざ蓋を開けてみると、待っていたのは飛びこみ営業の毎日。寝耳に水だったが、すでに洗浄工場は建設済み。顧客を獲得することが急務だったのだ。ふたりの若者は腹をくくる。毎週アルバイト情報誌を買い、「オープニングスタッフ募集」と掲げる飲食店を探しては訪問した。新規オープンの店なら、他社に先んじてグリスフィルターを提案できるはず。がむしゃらに飛びこむ日々は苦労の連続だったと草深さんは言う。「もともと野球しか知らない。そんな私が飛びこみ営業ですよ? 営業の『え』の字だってわからないのに。それこそ『こんにちは』の第一声からトークマニュアルをつくりました(笑)」。苦労が実り、ぽつぽつと受注できるようになると、今度はグリスフィルターの洗浄が追いつかなくなる。「赤字になるのがこわくて、在庫を持てなかったんです。営業先から帰社すると、出荷できるグリスフィルターがすっからかん。間に合わないから、自分たちで手洗浄していました」。

こうしてヒト・モノ・カネをなんとかやりくりし、レンタル事業は3年目に黒字化を達成。このまま鉄鋼メーカーの安定基盤のもと、事業を拡大していける―。そんな青写真を描いていた矢先のことだった。1994年、シーケークリーンアド株式会社設立。まさかの分社化である。新会社への転籍が決定し、メーカー社員という安定を失ったのだ。「晴天の霹靂だった」とふたりは口をそろえる。黒字化したとはいえ、まだとても盤石とは言えない新規事業と運命を共にするのだから無理もない。しかし、渡邉さんはこう付け加える。「そのおかげでスイッチが入ったんです。最初は面食らったけど、今となっては感謝しています」。それ以降、メンバー全員の目の色が変わった。それまで以上にチームで結束し、一丸となって営業活動に打ち込んだ。

[写真:左]薬剤での洗いとすすぎを2度繰り返して行う。「ボイラーの熱と高い湿度により、夏場はサウナです(笑)」と草深工場長。
[右]必要に応じてメンテナンスも行う。顧客は安心して、キレイで万全の状態のフィルターを使うことができる。

洗浄屋ではなく、コンサルタント。

事業は軌道に乗りつつある。ただ、明確な競合優位点となるとまだ模索中だった。そこで意識したのは、飲食店やオーナーの実態を深く理解すること。来る日も来る日も店舗に通いつづけ、現場を観察し、困りごとをヒアリングした。見えてきたのは、顧客がグリスフィルターそのものに興味を持つわけではないということだ。一度契約を結ぶだけで、スタッフが洗浄作業から解放される。万が一の火災も予防できる。異物混入など衛生面の不安も取り除ける。さらに、今で言うサブスクリプションのような固定契約により、こうしたメリットを以後ずっと享受できる。つまり、本業の接客や調理以外の煩わしい仕事を減らせることに価値があるのだ。草深さんは自分たちのサービスをこう捉え直したという。「グリスフィルターの洗浄屋ではなく、要は店舗管理支援のコンサルタント。そう気づいたんです」。

定義が変わることで、サービス内容自体もどんどん幅広くなっていった。「グリスフィルターを交換に行った際、フードの中も見るわけです。『汚れているから掃除しませんか?』と。同じように、エアコン清掃もやる。お客様からすると、『よく見てくれているな』となるわけです」。単なる売り込みではない。困りごとに先回りし、かゆいところに手が届く提案を心がけたのだ。さらには、排水から油脂をキャッチするグリストラップの清掃にも挑戦した。渡邉さんは胸を張って言う。「初期の頃は、現状のフィルターと新しいフィルターの性能差ばかりを営業していました。でもだんだんと、コンサルティング営業の意識を持つように変わっていった。グリスフィルターを入り口にして、エアコンもグリストラップも含め、店舗のトータルメンテナンスが提案できる。お客様があまり意識していないような火災予防や環境にやさしい水処理の大切さを、店舗管理の視点で説明することもあります。提案力は業界の中で一番だと思います」。

まるで新品のようにピカピカのフィルター

[写真:左]最後のすすぎが終わると、まるで新品のようにピカピカのフィルターが顔を出す。
[右]「今後は設備・技術・営業経験を活かして、フィルターに留まらずさまざまなものの洗浄・メンテナンス事業をして提供していきます」と草深工場長。2018年に設立した新工場も活用し、事業拡大を視野に入れている。

ファースト・コール・カンパニー。

幅広い提案力という強みを確立できた背景には、シーケークリーンアドが大切にしてきた価値観の存在がある。それは、どんな相談も断らず、自ら解決する姿勢だ。渡邉さんは言う。「お客様から『こういうことできないの?』と頼まれたのが、そもそものきっかけでした。要望に応える際は、協力会社任せにもしません。私たちがお店に行って、一緒に手伝います。だから、何か提案したときの説得力が違うんです。そうして現場力が磨かれました」。

過去にはこんなオーダーもあった。「オーナー様のご自宅​のトイレ工事を頼まれたんです。工事会社といっしょに取り付けましたよ。他にも、休耕地の畑を処分するお手伝いをしたこともあります。『それ、私がやるの!?』とさすがに驚きましたけど(笑)」。そこまで拡げていくと、まず解約にはならない。価格競争にも巻き込まれない。自然と、顧客との長い付き合いが育まれる。

「うちの会社のモットーは、『ファースト・コール・カンパニー』。お客様がお困りのときに、真っ先に思い出してもらえる会社になれという意味です。だから、電話がかかってくると嬉しいんですよね。今でも『これ、渡邉さんに頼んでもいいんでしたっけ?』と尋ねられたら、本当はうちのサービス範囲ではなくても、『もちろんです!』と答えちゃいます(笑)」。

ゼロからつくった会社。
愛着が半端じゃない。

事業立ち上げから30年以上が経った今、シーケークリーンアドのレンタル事業は堅調だ。顧客には、飲食店の他にもスーパーや百貨店など、東北から沖縄までその数は約4,000店ほどにもなる。

創業メンバーのふたりにとって、鉄鋼メーカーに入社したときには想像もしなかった人生となったに違いない。この30年をどのように捉えているのだろうか。草深工場長はこう答えた。「もともと私は、ふつうの人生が送りたかったんです。それが、プロ野球の世界に入って人生設計が変わった。さらに、グリスフィルターの新規事業にどっぷりつかったことで、ふつうじゃない人生が確定した(笑)。たくさん壁にぶつかり、そのたびに仲間と乗り越えてきた。この連帯感は宝物です」。その言葉に渡邉常務もうなずく。「私もやはり、まずは人との出会い。社員はもちろん、お客様も、協力会社さんも仲間。それが一番の財産です。自信を持って言えるのが、この仕事は天職だということ。今でも楽しくてしょうがない。自分たちが手塩にかけて育ててきた会社だから、愛着が半端じゃないよね(笑)」。そこには、20代の頃から変わらないふたつの笑顔があった。

シーケークリーンアド(株)の草深工場長(左)渡邉常務(右)

シーケークリーンアド(株)の草深工場長(左)と渡邉常務(右)。30年、仲間とともにその中心となって二人三脚で歩んできたふたり。『絆』というと浅はかな表現かもしれないが、それは目に見えるものだということを実感した。

編集担当:深山 徹也

編集担当:深山 徹也

おふたりの行動力に圧倒されました!

メーカーに入社して、いきなり新規事業を任される。お二人はじめ皆さんの行動力に驚きました。自分に置き換えたら、入社してすぐ新規事業に挑戦するなんて、ちょっと想像できないです。苦楽を共にしたおふたりは、まさに「戦友」。長年の信頼関係が取材班全員に伝わってきました。

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