#07 大洋産業(株)
三重県桑名市安永6-1833-1
TEL:0594-22-6792
https://taiyosangyo.com/
会社が劇的に変わった。
たった1年で。
会社がすごく変わった―。新体制になってから1年の間に起こったことを端的に、広報担当・鈴木さんは語った。工場を案内してもらう道すがらその真意を尋ねると、こんな答えが返ってきた。「まず社内の雰囲気です。以前は工場も事務所も昔ながらのそれという感じで、会話も少なく静まり返っていました。それが今では、内装がキレイになり話し声も飛び交います」。これほど分かりやすく組織に活気が生まれた例も珍しい。晴れやかな笑顔で鈴木さんはこう付け加える。「作業服と制服も、社員主導で一新しました。工場のイメージを格好良くするために」。
M&Aによる事業承継が実施されたのは2020年7月。わずか1年という短期間で変えられることは、そう多くはないように思える。にもかかわらず、会社の雰囲気は様変わりした。改革を推進したのは、新たに代表取締役に就任した影山彰久社長である。いったいどんな施策を展開したのだろうか?
磨けばもっと輝く。
鉄も。この会社も。
大洋産業は上下水道用の鋳物を製造する会社である。製品の一例としては「マンホールの鉄蓋」や、樹脂部分の水色がトレードマークの「水道メーターボックス」がある。誰にとっても身近な存在といえるだろう。日本全国のインフラが整備し尽くされた現在、定期的な更新需要はあるものの、市場自体は緩やかに縮小している。そんな状況下で、デジタル化を推進しないと会社に未来はないと考え、後継者を探していたのが前社長だった。そして、静岡にある鉄工所の3代目として、デジタル化を成功させた実績をもっていたのが影山社長だった。両者の思いが重なり、M&Aを実施する運びとなったのだ。
新体制へ移行するにあたり、影山社長は次のような思いを抱いていたという。「もともと大洋産業には卓越した技術がありました。働く環境面などさまざまな仕組みが古いだけで、もっと伸ばせる。磨けば輝くダイヤの原石だと感じていました」。製造上の強みといえば、溶解から砂型づくり、注湯、塗装、組立、検査まで一気通貫でできることだが、いずれも昔ながらのアナログな管理が中心だった。キーワードはデータ化だ。特に伸びしろを見出していたのが、砂型づくりの工程だった。
まるで「うなぎ屋の秘伝のたれ」。
※砂の話です。
上下水道用の鋳物は砂型鋳造でつくられている。砂型鋳造とは、砂で造型した鋳型に溶湯(溶けた鉄)を注ぎ込む製法だ。この砂型をつくる工程に、ノウハウが詰まっているという。「夏と冬でも違うし、砂型のサイズでも違ってくる。大きなものばかりに砂を使っていると水分が奪われていく。水分が足りなくなってくると型崩れが起きる。不良を削減すること、品質を保つことがすごく大変なんです。昨日うまくいっても、今日はダメ。あっちがうまくいっても、こっちはダメ。本当に難しい」。
砂型自体は1回しか使えないが、砂そのものは崩して何回でも繰り返し使える。しかし、飛散したり付着したりしてだんだん減っていく。そのため、少しずつ新しい砂を継ぎ足していかなければならない。「大変なのは、水分調整をしてから馴染むまでに時間がかかること。砂が使い物になるまでに3~4日かかったりする。僕も当初は知らなかったから、単純に新しい砂を入れたらいいと思っていたけど違った。砂が命。うなぎ屋で言う秘伝のたれみたいなものなんです」。
そして、この重要な仕事はずっと、職人の経験と勘だのみだった。だがノウハウを覚えるのに10年もかかるようでは、若手が育たない。だからデータの蓄積に舵を切った。影山社長は言う。「データ化は難しくないはずだと思っています。1530℃で出湯せよとか、金属や薬品はこの割合で配合せよとか、すべて目安となる数値が決まっているので。夏場の高温多湿で不良が出たら、その条件を記録することで次に活かせます」。
ものづくりって確かに地味。
でもめちゃめちゃクリエイティブ!
大洋産業では今、ブランディングに力を入れている。鉄鋼業について回るいわゆる3Kのイメージを払拭し、もっとポジティブなものにしたいと考えているのだ。「外から見たときに、ここで働きたくないと思われてしまったら、鉄鋼業に未来はないですから」。そこで、まずは働きやすさから改善するため、事務所の内装をキレイにした。BGMで適度なリラックスを促し、会話が生まれやすい雰囲気もつくった。冒頭の作業服・制服の一新では、社員自らが投票でデザインを決めた。
情報発信にも精力的だ。普通に考えたらBtoBがメインの鋳物会社に、それは必須なことには思えない。それでもInstagramや自社サイトでの発信が活発な理由について聞くとこんな答えが。「鉄鋼業は確かに泥臭い面はある。そこは否定しない。加えてデータの蓄積しかり、意外に地味だし難しい。だからこそ、うまくいった時はめちゃくちゃ嬉しい。そこにこそ面白さがある。多くの製造業において、ここの面白さが発信できていない。ものづくりの現場は地味に見えるけど、実はめちゃくちゃクリエイティブ!ということを伝えたいんです」。
こうした一連の働き方改革やものづくりの魅力が積極的に外に発信されていくと、フォロワーも目に見えて増えた。結果、月に数人程度だった採用応募者は、月100人以上へ一気に増加したというから驚きだ。
主体性は、伝播する。
それが強い組織を育む。
「私もやっていたから分かりますが、現場仕事ってしんどさはある。そこを頑張っている人たちには、知識と経験がある。そんな現場の人たちに主体性が育まれたら、一人ひとりが会社で起こっていることを自分ごとにできれば、ものすごく強い組織になるはず。だから新卒の子にも言うんです。『君が頑張って大洋産業の社長になってくれればいい』と。誰にでもチャンスがあるということです。売上と利益を最大化し、組織を活性化させ、みんなを幸せにできる人がトップにふさわしいと考えています。どこまで伝わっているか分かりませんが、社員の中には『将来はトップになりたい』と言う人も出てきています」。
また、工場という現場でありがちなのが40代以降でないと責任あるポジションにつけないというもの。大洋産業もかつてそうだった。そうした工場は往々にして人材投資にも消極的で、10の原資のうち10を目の前の仕事につぎ込むのが常である。影山社長はそこにも切り込んだ。「ベンチャーのように、いちばん脂の乗った30~35歳を中核メンバーにしたい。下積み20年は長すぎる。人材投資に力を入れ、若手をモチベートしたい。もちろんベテランのキャリアも大事。うちはグループ会社の強みを活かして、キャリアのステージも多彩に用意しています」。
象徴的なエピソードがある。こうした社員への働きかけや、情報発信、そうして働きやすい環境になったと感じたのか、数年前に辞めた社員2名が戻ってきたという。経験を持っているうえに、わざわざ戻ってきてくれた彼らはすでに主体的な状態だ。それに感化されるかのように、周りの社員もモチベーションが上がり、目の色を変えて仕事に打ち込むようになったのだ。
事業承継という多くの町工場が抱える悩みを、鮮やかなまでにポジティブな変化のきっかけにした大洋産業。影山社長から見た同社がそうであったように、もしかしたら多くの町工場もまた、「ダイヤの原石」なのではないだろうか。
編集担当:竹下 正晃
私にも伝わった明らかな変化。社員さんからしたら相当なはず!
いつもエネルギッシュな影山社長には、色々と勉強させていただいています。今回の取材で、あらためて、この1年に起きたことを詳しくお聞きできました。知ってはいたものの情報として点在していたあれこれが、お話を通して繋がり、「なるほど、だからこういう変化が出来たのか」と腹落ちしました。