正々堂々。
ある町工場の経営哲学。

東海アルミナ磁器工業

#05 東海アルミナ磁器工業(株)
愛知県春日井市穴橋町3丁目6-7
TEL:0568-84-3186
http://www.tokai-alumina.com

大手に物言える
町工場でありたい。

「セラミック、おもしろいやろ?」少年のように屈託のない笑顔を見せるのは、この道ひと筋42年の平野政憲社長だ。「これを使うメリットは、熱と摩耗に強くて絶縁もできること。ダイヤの次に強い素材、それがファインセラミックスなんです」。熱い語り口に、我々編集部も惹き込まれていく。「もちろんデメリットもある。複雑な形状がつくれないことです」。指差す先に見えるのは焼成炉だ。「焼くと2割も縮んでしまう。そこが難しい。金属のほうがずっと扱いやすいよ」。やれやれといった表情を浮かべつつも、再び目を輝かせる。「うまくつくれなかったとき、原因を調べますが、セラミックの場合は解明できないことが未だにある。本当に奥が深い。飽きがこないよ」。

東海アルミナ磁器工業株式会社は、アルミナを中心としたファインセラミックス成形品の製造会社である。セラミックとは、広義では焼き物全般を指し、陶磁器も含む。ただ現在では、狭義の「ファインセラミックス」、つまりアルミナ(Al2O3)や窒化ケイ素(Si3N4)などの原料を高純度に精錬したものを指すのが一般的だ。同社の強みは、多種多彩な原料を取り揃え、生加工、焼成、研磨、検査までワンストップで行えること。最近では電気自動車向けの「セラミック製ヒューズカバー」の売れ行きが好調だ。

社員数約40名。数千人規模の大手セラミックメーカーに比べたら、はるかに規模は小さい。だが、それこそが優位点なのだという。「大手だと分業制が基本。原料が遠くの工場、焼成がまた別の工場でとなると、前後の工程が見えない。その点、うちみたいに小さな会社は、ひとつの工場の中で全ての工程を見て覚えることができる。人数が少ないから、1人2役3役が当たり前。だからセラミックに詳しくなれるんです」。自信に満ちた表情で平野社長は話す。「小さくても中身のある会社がいい。大手に物言える町工場でありたいんです」。

[写真:左]原料をオリジナルの配合でブレンドし、粉砕・撹拌を行うミル。アルミナの品質を左右する重要な工程だ。[右]ミルに入っていたのは原料。ではなく、平野社長の長男・竜矢さん。この日はたまたま内壁を修理していた。設備メーカーに頼らず、直せるものは自分たちで直してしまう。

「絶対に変なものは出すな」
会長からの教え。

東海アルミナには営業職がいない。いい製品をつくり、その高い技術力が評判を呼び、次の仕事が舞い込むという受注モデルが確立されている。意に沿わない仕事、たとえば金属や樹脂でも十分に要求品質を満たせる場合は、断ることさえある。小さな町工場がなぜ、ここまで強気な姿勢を貫けるのか? その理由のひとつは、自分たちがつくるセラミックの品質に対して、絶対の自信があるからだ。大手に負ける気なんてさらさらない。品質の高さが同社の生命線なのだ。「だから、絶対に変なものは出すなと従業員には伝えています」。このセリフは平野社長が若い頃、創業者から口を酸っぱくして言われた言葉でもある。

今でこそセラミックを熟知する平野さんだが、入社時は右も左もわからなかったという。創業者(現会長)の娘婿として迎えられたのは、25歳のとき。文系出身、ゼロからのスタートだった。当時の下積み期間をこう振り返る。「最初はそりゃあ、挫折もありましたよ。しょっちゅうモノを壊して怒られたし、こっちが意見を通そうとしても、全部却下される。セラミックに関して創業者は、大学教授とかより詳しくてね。とても敵わん(笑)」。

現会長のもと研鑽を重ね、すべての工程に精通した平野社長は、各工程にノウハウがあり、それらを総動員して初めて、胸を張れる製品ができると学んだ。いい製品をつくれれば、取引先の言いなりにはならない。「セラミックの良し悪しなんて、プロが触れば一発でわかる。東海アルミナの製品は素晴らしいと、同業者から言ってもらえるような品質じゃないとダメなんです」。

[写真:左]多種多様なアルミナ粉末を生成。アルミナ純度99.99%の「4ナイン」や、黒色アルミナといった希少原料も取り揃える。[中央]プレスや鋳込みにより成形する。手に取るとわかるが、この時点ではまだお菓子の落雁のように脆い。[右]トンネル炉。1,580℃で焼成。粉末粒子同士が結合、一体化することで、極めて硬い製品ができあがる。

ひとつの製品に依存するな。
取引先に、頭が上がらなくなる。

技術力さえあれば、大手企業と対等の関係を築けるのだろうか。実は、そうでもないらしい。会長から受け継いだ、ある“戦術”が重要なのだという。「経営者として意識しているのは、売上比率を分散させること。ひとつの製品ばかりつくっていたら、その取引先に頭が上がらなくなるから」。

創業時に製造していたのは、繊維機械に組み込まれている部品「糸道」だった。売上に占める割合は99%にも達したが、繊維ショックにより受注量は激減した。次に主力製品となったのは、給湯器の自動点火プラグの碍子(がいし)。これもまた8割を占めたが、安価な中国製品の登場により競争力を失った。取引先からは、中国製品に依存するリスクを回避するための「保険」にされたこともあったという。こうした手痛い経験から決めたことがある。「どんなに引き合いの多い製品でも、売上に占める割合は40~50%以下に抑えるようにしています。その程度の割合なら、もし取引が中止になっても会社は存続できるでしょ」。ここ2~3年で急激に売上を伸ばしているヒューズカバーだが、現在の売上比率はまだ3割。4割になるまではどんどん増やすつもりだという。「取引先の言いなりになってしまう同業者を何社も見てきました。そうならないように、売上比率は意識しています。先代の頃からですが、使いこなせるようになったのはここ最近。67年生きてきて、やっと覚えた戦術です(笑)」。

東海アルミナ磁器工業(株)

慣れない撮影の場面でも、社員の方と接するように自然体のままファインダーに向き合っていただいた。

横取りはしない。
正々堂々とたたかう。

では、「新しい仕事」はどんな基準で受けているのだろうか? 平野社長からはこんな答えが返ってきた。「商社の方が相談してきたとします。他社のつくったセラミックを見せながら、『これより安いものをつくれませんか?』と。そのセラミックの品質が良ければ、私たちはお断りします。横取りしても、セラミック業界は発展しませんから」。ライバルから仕事を奪おうという気はさらさらないのだ。とことん、公明正大である。「ただ、もしそのセラミックが明らかに劣悪なら、『私たちにつくらせてください』と言います」。勝負するときはあくまで、正々堂々と。実際、そうして受注したのが電気自動車向けのヒューズカバーだった。

ちなみにこのヒューズカバーは「日本車向け」ではなく、「日本市場に投入される欧州車向け」だ。そこも大きなポイントだったと平野社長は言う。「日本車だと数量が出すぎる。つまり価格競争になって、うちみたいな中小企業には厳しい。そういう仕事は大手に任せておけばいい。数量があまり出ないという予測が立ったから、受注することに決めました」。大手ライバル企業との戦い方を熟知しているのだ。

東海アルミナ磁器工業(株) 平野社長

優れた品質のものと、そうでないものを若手社員に渡して、セラミックの良し悪しを判定させる。そうすることで、その若手社員の習熟度が一発でわかるという。

その奥深さに魅了された。
だから、セラミック業界のために。

コロナ禍により春先は売上が落ち込んだというが、近年の好調な流れは今後も続きそうだ。すでにヒューズカバーだけでなく、景気の影響を受けにくい医療分野の製品拡充にも力を入れている。さらには、窒化ケイ素という、アルミナより優れたセラミックの準備も進めている。自社の舵取りに抜かりはない。

足元をしっかり固めているからこそ、平野社長の眼差しはセラミック業界全体に注がれる。「こんなセラミックをつくってほしいと言われて、もしそれが金属や樹脂でも間に合うものなら、セラミックはおすすめしません。目先の利益だけを優先してなんでも仕事を受けていたらダメなんです。『他の素材の方が良かった』とか『品質が悪い』とレッテルを貼られ、結果セラミックのイメージが悪くなっちゃう。それじゃ本末転倒です。先代もそうだけど、俺はセラミックの奥深さに魅了された。だから、セラミックのため、この業界のためになることをしていきたいんです」。

多くの企業は規模を追求する。いかにして売上を増やすか、市場占有率を高めるかを日々考え推進力にしている。だが、東海アルミナは違う。平野社長ははっきりと言う。「会社を大きくすることは好まない。社員全員の顔がちゃんと見える、このくらいの規模がちょうどいい」と。この先も東海アルミナは、正々堂々とたたかい続けるだろう。大手に物言える町工場として。

編集担当:大塚 卓

失敗談でも笑顔の平野社長。いつもパワーを戴いています!

平野社長とは、これまでのお付き合いでも沢山お話をしていますが、取材では聞いたことのない話が出てくる出てくる(笑)。終始楽しげに語ってくださいましたが、中小企業としての経営がテーマになると、話は一層熱を帯びたものに。会社への愛、セラミックへの愛を感じる取材でした。

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