#03 (株)艶金
岐阜県大垣市十六町字高畑1050
TEL:0584-92-1821
婦人服やスポーツウェアなどの衣料を中心に扱う染色整理加工会社。環坑負荷を経減する取り組みにより脚光を浴びる、繊維業界を代表する環境先進企業でもある。
環境にいいことして、
何になるのだろう?
ふと浮かぶそんな疑問に対して、納得のいく答えを持ち合わせていないと、人は易きに流れる。会社だって同じだ。環境への取り組みは骨が折れる。有害物質の排出を抑制したり、再生可能エネルギーを導入したりするには、設備投資が必要だ。生産工程の見直しを迫られる場面もあるだろう。しかし、そうした苦労を差し引いてもやる価値がある。そう思わせてくれる会社が、岐阜・大垣の株式会社艶金だ。
洋服の品質に大きく関わる、布地を美しく「染め上げる工程」。抗菌、撥水、消臭といった様々な「機能を施すエ程」。ふたつをまとめて、「染色整理加工」という。明治22年に創業した艶金は、130年にわたりこの染色加工を生業としてきた。大垣市は別名「水の都」。濃尾平野を流れる木曽川、長良川、揖斐川がもたらす豊富な地下水資源を活用し、艶金は発展してきた。ここ数年は環境経営で注目を集めている。バイオマスボイラーや省エネ型染色機の導入を進め、食品の「のこりもの」を染料とした「のこり染」の販売も話題に。四代目の墨社長は、環境省の講演会をはじめ、自治体主催のワークショップや環境系のイべントなどにもひっばりだこだ。
ちょっとでも環境負荷を減らす
染色会社でありたい。
ぜ環境経営に力を入れるようになったのか伺うと、墨社長からはこんな返答が。「洋服をつくる工程の中でも、私たちのビジネスは、環境に与える負荷が非常に大きいんです」。まず、染色は大量の水を使用する。生地を染めるには、ものによっては水温を100度以上に上げなければならず、ボイラーで大量の熱を供給する。つまり、膨大なエネルギーが消費される。さらに、様々な色・柄に染め上げ、撥水性や肌触りなどを向上させる加工を施すには、どうしても化学薬品を使用せざるをえない。地下水という自然の恵みを受け取る一方で、汚染物質や二酸化炭素を生み出す。それが染色加工なのだという。「人間にとって欠かせない衣食住は、それをつくる過程で、地球にものすごく負荷を与えているんです」と墨社長は言う。染色を生業とする以上は、必要悪という考え方もある。しかし、そうと割り切ることができなかったのだ。
「ちょっとでも、環境負荷を減らす染色会社でありたい。そんな想いは昔からあった」。環墳に負荷を与える当事者が、その解決に取り組むべき。企業の社会的責任を果たすため、艶金は歩んできた。大垣に工場を構える際は、高度な排水処理設備を迷わず導入した。染色機や乾燥機が老朽化し買い替えるタイミングになったら、環境にやさしい省エネタイプのものを導入した。できることからひとつずつ手をつけていった。
「あなたの会社は素晴らしい!」
固い握手を交わした瞬間。
それは、2018年の出来事だった。ある海外アパレルメーカーA社が、工場視察に来ることになった。ファッションピジネス業界では近年、持続可能性というキーワードが急速に注目度アップ。その取り組みの有り無しが、企業やアパレルブランドの価値さえ左右する時代だ。A社も、艶金が持続可能性に配慮した経営をしているかどうかを審査するために、本国から品質管理のマネージャーが視察しに訪れたのだという。何も問題がなければ受注、問題ありとジャッジされれば失注というー大局面。「こりゃえらいこっちゃ!と社内が騒然としました」と墨社長は当時を振り返る。給料の未払いがないか。非人道的な労務環境じゃないか。染色の品質管理はきちんと行われているか。たっぷり2日かけてチェックされた。「問題なしと認定されたんですが、最後に、『ボイラーを見せてくれ』と言われたんです。工場裏に案内すると、『このボイラーを導入したのはあなたですか?』と質問してくるわけです。『いいえ、約30年前に、当時の経営陣の判断で入れました」と正直に答えました。すると、「あなたの会社は素晴らしい!』って、確かに言われたんです。驚きましたよ」。それは、建築廃材などからなる木材チップを燃料とするバイオマスボイラーだった。樹木が成長する間に吸収する二酸化炭素の量と、燃焼時に排出される二酸化炭素の量が相殺される「カーボンニュートラル」を実現できるボイラー。そこを評価されたのだ。「当時の先輩たちがカーボンニュートラルのことを意識していたと伝えたら、『そうか!』と振手を求められました。あれほど固い握手を交わしたのは、後にも先にもないですね」。そう言って墨社長は笑った。
環境経営は、受注獲得の切り札になる。
海外アパレルメーカーからの視察という難局をチャンスに変え、無事受注できたことは、環境経営に対するさらなる後押しになったという。「バイオマスボイラーのアピールが、経営戦略に役立つ時代が来たんだと気づいたんです」。その後の墨社長の動きは迅速だった。環境省の取り組みをチェックし、国際的な算定基準に準拠した二酸化炭素排出塁を算定することに。すると、驚きの事実が判明した。「一般的なボイラー(化石燃料)使用の同業他社と比較して、二酸化炭素排出量が約75%も少ないことがわかったんです」。これを積極的にアピールしていこうと決意した。洋服生地ができあがるまでの二酸化炭素排出愛を見ると、一般的に染色時の比率が高い。そんな中、二酸化炭素排出量の少ないサプライチェーンであることを説明すれば、アパレル会社への訴求ポイントになる。そう考えたのだ。しかし、日本のアパレル産業ではまだまだ環境への取り組みが進んでいないという。「艶金さんのおっしゃることはわかります。でも、そうは言っても…」と、話は平行線のままのことが多い。それでも墨社長は前を見据える。
地域から愛される衣料生産を。
環境先進企業としてアピールするうえで大きな役割を担っているのが、「のこり染」だ。食品メーカーから譲り受けた玉ねぎや小豆の皮、野菜ジュース用に搾った後のパセリや、コーヒー豆のかすなど、「のこりもの」で染色したタオルやカバンを、「KURAKIN」という名の自社ブランドで販売している。「最初は私の道楽くらいのつもりで始めました。事業としてうまくいかなくても、会社としては大勢に影響はないですし。今もまだ売上規模は小さいですよ」。そう語る墨社長は、「のこり染」のワークショップに力を入れている。「野菜に触れる機会がない子は、にんじんを木の実だと思っていたりする。そのように、ふだん口にするものが、どう作られているのかを知らない状況だと、大量生産され広く流通するものが全てだと思ってしまう。言い換えると、産地や品質、作られ方の違いに無頓着になるということ。多様性が失われ、文化が先細りになるでしょう。染色についても一緒です。ファストファッションのような量産・安価な洋服も、ある面では素晴らしい。その一方で、環境に配慮した染色や、「のこりもの」を再利用した染色があることも知ってほしい。そのうえで愛着を持ってもらえたら、嬉しいじゃないですか」。実際、ワークショップに参加し自分で染めてみると、子どもたちはものすごく喜んで、そのハンカチを大切にするそうだ。
こうした取り組みを通して、墨社長はある変化を実感しているという。「異業穏の方からたくさんお問い合わせをいただくようになったんです。お客様のほうから色の出そうな「のこりもの」を送ってきて、『一緒にコラボレーションしませんか?』と打診いただいたり。あるいは、『艶金さんのHPを見て情熱を感じました。こんな生地をつくってもらえませんか?』とお声がけいただいたリ。これからの時代、こうした草の根のエコ運動やコラボレーションが、大きなうねりになるんじゃないかって。そう考えるようになりました」。今後のビジョンについて、墨社長はこう語った。「今後のアパレル業界は、グローバルな大量生産と、ローカルな小ロット生産に二極化していくでしょう。私たちが生きる道は、もちろん後者です。環境に配應したローカルな衣料生産の素晴らしさを、もっともっと発信していくつもりです」。