(株)菱三陶園
滋賀県甲賀市長野766
TEL:0748-82-0044
https://www.hissanpottery.com/
日本六古窯の一つに数えられる滋賀県の信楽焼。その伝統を受け継ぐ菱三陶園には、国内外の一流レストランから陶食器の注文が舞い込むという。サスティナブルかつイノベーティブ。そんな現代的な陶器づくりについて、5代目当主の小川公男さんに話を聞いた。
廃棄食材から食器をつくるという、
究極のサステナビリティ
――これは何ですか? 人の骨じゃないですよね・・・?
小川:牛の骨です(笑)。あるステーキハウスからのオーダーで食器をつくりました。そのお店では牛1頭のあらゆる部位を調理します。それこそ尻尾すらテールスープにして提供する徹底ぶり。すべては命を無駄にしないためです。でも骨だけはどうしても大量に余ってしまう。そこで、牛骨を粉末にして粘土や釉薬に混ぜるわけです。骨に含まれるリン酸カルシウムには、白くしたりちょっとした乳濁を加えたりする効果があるので、食器に独特の風合いを付与することができます。
――食器づくりでもフードロス削減に貢献できるんですね。
小川:そうですね。サステナビリティを重視する先進的なレストランは、料理だけでなく、その器も含めてトータルで考えています。それまで使い途のなかった廃棄食材を送ってもらい、それを原料にした陶食器をつくって送り返す。一つの食材を通して、これまでにはない魅力的なストーリーが生まれるわけです。SDGsやサステナビリティの文脈で、国内外の一流レストランからご支持いただいています。
――他にはどんな材料からつくっていますか?
小川:焼酎メーカーから、「信楽焼きで麦焼酎のボトルをつくってほしい」というオーダーをいただいたときは、麦殻などの不要部分を焼いて灰にしたものを釉薬に入れることを提案しました。蕎麦屋さんからの依頼に対しては、やはり蕎麦殻を釉薬にして食器をつくりました。さまざまな廃材が実は、再利用可能なんです。
ニューヨークで絶賛された、
もはや「石」にしか見えないディフューザー
――見た目はもちろん、つくり方まで現代人の感性に刺さりますね。
小川:そうかもしれません。変わり種でいうと、あるメーカーからの依頼で陶器製のストーンディフューザーもつくっています。「ディフューザーオイルを数滴落とせば、オイルが染み込み、ゆっくり香りが拡散するようにしてほしい」「海辺で拾ってきた石のようなフォルム・質感にしてほしい」。こういった難しい要望をたくさんいただきました(笑)。それを全部受け止めて試作を繰り返し、開発に2年半ほど費やしました。何より難しいのは石の表現。陶器をただ単に焼いても、石のような雰囲気にはなりませんから。
――どうやって質感を再現したんですか?
小川:そもそも石というものは、岩石が崩れ、川に流された破片が削られてできます。海辺にたどり着く頃には自然と丸みを帯びています。陶器を焼き上げてから、そのプロセスを再現してあげるんです。削って磨いて、削って磨いて。そうすると、どんどん石に近づいてくるんです。
――なるほど、ものすごい労作ですね! 反響はいかがでしたか?
小川:発表したのはコロナ禍の頃で、日本ではまだ販売活動ができない状況でした。そこで、クライアントが急遽ニューヨークへ持って行き、「NY NOW Summer 2021」という北米最大規模のライフスタイル・ギフトの見本市へ出展することに。すると、想像を超える評価をいただき、「Accent on Design Best Collection」に選出されたんです。それが話題となり、かなり売れましたね。この商品は「elemense(エレメンス)」というフレグランスブランドとして、現在も販売中です。
「再生陶器」「地産地消」を、
依頼元のブランディングにつなげる
――陶器は、思いもよらないような可能性を秘めているんですね。
小川:最近取り組んでいるのが再生陶器です。料理屋さんと一緒に仕事をするときは、たいてい特注対応になります。ちょっと欠けただけなら修復可能ですが、大きく欠けたりバラバラに割れたりしたときは、お客様にお出しできない。でも、自らオーダーメイドで注文したものだから、オーナーや料理長の思い入れが強くて捨てられない。「割れちゃったんだけど、これどうにかできませんか?」という相談が非常に多いんです。それで再生陶器づくりを本格化しました。
――具体的にはどのように再生するのですか?
小川:割れ物を全部まとめて粉砕し、通しにかけて微粉末にします。一定の粒度にそろえれば、粘土と混ぜ合わせて再利用することができます。しかも、一度焼いたものを入れているから、通常の粘土に比べて焼成後の収縮が小さいという特性もある。
――その特性を生かして何をつくりましたか?
小川:例えば、温浴施設内の壁一面の陶器タイル。通常の粘土だと絶対割れてしまいますから。ちなみにこのとき使った粘土には、その温浴施設の敷地から採れる粘土も混ぜて使っています。まさに地産地消です。「再生陶器」も「地産地消」も、クライアントのブランディングに大きく貢献することができます。ただ陶器を提供しているだけじゃないんです。そこに、私たち菱三陶園の価値があるわけです。
時代のニーズに合わせて、革新的な陶器づくりに挑戦する小川公男さん。今後も新たな「陶器の可能性」を示しつづけるに違いない。