ガス会社がなぜ情報誌を刊行?!
Hello! FACTORYの誕生秘話に迫ります。

Hello! FACTORYの誕生秘話サムネイル

もっと工場を身近に感じてもらいたい。工場で働く人にも、そうじゃない人にも、色々な工場の魅力を知ってもらいたい。そんなコンセプトでスタートした「Hello! FACTORY」。手にした方によく聞かれるのが、「なんでガス会社のニイミさんがこんなことやってるの?儲けにもならなさそうなのに」という素朴な疑問。あまりにも多く質問いただくので、今回記事としてまとめることにしました。Hello! FACTORYの産みの親、ニイミ産業の北野常務が回答します。

北野青年、齢30にして町工場の魅力にハマる。

「じつは私、三十年も前から町工場のファンなんです」

約30年近く工業ガスを扱う仕事をしてきた北野常務。街の鍛冶屋のような鉄工所から大手の半導体工場まで様々な現場に出入りしてきた。大手の最先端工場は確かにすごかった。工場全体がクリーンルームとなっており、一台当たり数億円の製造装置がずらりと並ぶ様子は圧巻。けれど、当時の北野青年の心を捉えたのは最先端の工場ではなく、小さな町工場の社長や職人さんから聞く様々なドラマだった。

「ガスを納品する際に、話好きな社長と世間話で盛り上がることがよくありました。缶コーヒーを飲みながら、『うちはこんな小さな工場だけど、原発に使われるような超高精度な加工やってんだぞ』とかびっくりするような話を聞くんです。山間部の掘立小屋みたいな工場でスカイラインGTRの部品を作っていたり。『えっ!?社長、本当ですか?!』って驚くと『なんだよ信じられねえのかよ、失礼な奴だな(笑)』みたいな」

最初からモノづくりや工業製品に興味があったわけじゃない。大卒後の最初の就職先は食品メーカー。志望理由は「食べるのが好きだったから」。30歳前後で工業用ガスの会社に転職し、“仕事だからしょうがなく”いろんな営業先を回りはじめた。そこで社長や職人から様々な話を聞かされて町工場の魅力にハマる。以来、「この部品はどんな製品に使われているんですか?」と自ら積極的に質問するようになり、北野青年の推し活はさらに加速した。

HelloFACTORY1号の取材の様子

写真はHello! FACTORY1号の取材の様子。好奇心を爆発させ最前線に立ってしまうのが、Hello! FACTORY編集長である北野の真骨頂。(白シャツに眼鏡をかけているのが北野常務)

「出先の町工場で面白い話を聞いて会社に戻ったら、同僚の営業マンにも話すんですよ。『あそこの工場でこんなすごい製品つくってるんだよ』と。そうしたら周りの仲間も負けじとお客様自慢をしはじめる。『俺の営業先に世界的に有名なブランド包丁作ってるところあるよ。包丁1個20万だぞ?すごいだろ』と。別に彼がすごいわけでもないのにね(笑) こういうことを、普段工場と関わりがない人たちにも伝えていけたら、モノづくりのファンが広がるだろうな。自分たちで発信してみたいなという想いが沸々と湧いてきました」

営業メンバーを、フリーペーパーの編集委員に。

「Hello! FACTORYの企画には、最初はうちの社長も疑心暗鬼でした。予算もマンパワーもかかるうえに、これで売上が上がるわけじゃない。『やらせてください!』と必死にプレゼンし、なんとかOKをもらいました。そのとき伝えたのは、Hello! FACTORYを通じて町工場の魅力を発信することで、その工場の『社員さんのモチベーションアップに繋がる』『新規取引のきっかけになる』『人材採用にも繋がる』ということ。Hello! FACTORYは顧客である町工場を、ガスを納める以外の方法で応援する手段なんです」

町工場が元気になれば将来ニイミ産業への注文も増えるかもしれない。かなり遠回りだけれど、将来の自分たちにもメリットがあるはずだ。プレゼンでそう熱弁し、なんとか承認を取り付けた。(余談だが当初疑心暗鬼だった社長も、今ではHello! FACTORYの大ファンである)

HelloFACTORYのビジョン

社長を口説き落とした壮大なビジョン(実際に使った資料より)

「社長の説得の次に大変だったのはチームビルディング。私はフリーペーパーの編集委員にどうしても現場の営業メンバーを巻き込みたかった。町工場に取材交渉をして編集する作業を、それぞれが主体的に動いてもらえなければプロジェクトは確実に頓挫してしまう。私と同じだけの熱量を持ってもらえるよう何度も議論を重ねました。『どんなフリーペーパーにするのか』『読者は何を求めているのか』、丁寧に話し合いを重ね、半年ほどかけて少しずつコンセプトを固めていったんです」

Hello! FACTORYというタイトルも、編集メンバー全員の投票で決めた。町工場は、世間一般の人にとってはなかなか敷居が高い場所。そのハードルをできるだけ下げたくて、あえて「Hello!」という気軽な挨拶をタイトルに取り入れた。

タイトル案や取材先などを検討している様子。

「メインタイトル案として30案くらい出したんですが、副題に付けている『東海町工場通信』もそのうちの一つ。あと、裏面の工場見聞録というコンテンツも、もともとは社員が出してきたタイトル案の一つでした。そうやって自分たちの手でフリーペーパーを作り上げていく過程で、編集委員全員がこのプロジェクトを自分事として認識してくれたように思います」

「家宝にします」。その言葉が私たちにとっての宝物。

現在、最新の8号がニイミ産業の各支店で配布中。プロジェクト開始から約5年が経ち、最初に目指していた目標が着実に現実のものとなってきた。

「ありがたいことに、掲載させていただいた町工場の方から『取引先に配りたいからHello! FACTORYいっぱいちょうだいよ』と嬉しい言葉をいただくんです。事務所のカウンターに置いて配布したり、自社の会社案内と一緒に取引先に持っていったり。『Hello! FACTORYの読者から問い合わせがあって新規受注に繋がったよ』と言われたことも。本当に嬉しいですよね。ガスを納める以外のやり方で町工場を応援しているという実感を味わえています」

新規売上に繋げるだけが、応援ではない。「社内にいると当たり前すぎてわからないけど、うちの会社って実はすごいことやっていたんだな」と、従業員の方の誇りにつながったり。取材した部署とは別の部署の方が、自社の知られざる魅力に気付いたり。Hello! FACTORYの波及効果は様々なところに広がってきた。

過去回の写真

7号で取材した竹新製菓の新社長(左)とそのお父様で相談役(右)。Hello! FACTORYの取り組みを高く評価していただいた。

「親娘でやられている町工場を取材した際に、社長であるお父様が普段は照れくさくてなかなか話さない仕事への想いを吐露してくださったんです。それを聞いた娘さんが『お父さん、そんな風に思っていたんだ。初めて聞きました』って感動されていて。実際に刷り上がったHello! FACTORY本紙をお持ちすると、『家宝にします』と言ってくださった。多少のリップサービスはあるかもしれませんが、その言葉が私たちにとっては何よりの宝物だなと思います」

まだ微力かもしれないが、Hello! FACTORYは着実にお客様のポジティブな変化を生み出してきた。けれど、一番変わったのはニイミ産業自身だと北野常務は言う。

「特に編集委員は、仕事に向き合う意識はもちろん、具体的な営業スキルも劇的に変わりました。その背景について話すとかなり長くなりそうなので、後編でお話ししたいと思います」


というわけで、ニイミ産業社内に起こった大変革は後編にて!

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